2026-06-15 52-Hz whale
先日、町田そのこさんの52ヘルツのクジラたちという小説を読んだ
この物語のキーアイテムとして孤独の象徴として52Hzで鳴くクジラの鳴き声が出てくる
52Hzのクジラの話自体は聞いたことがあるが、論文で読んだことはないなと思い調べてみたところ、12年間トラッキングしたという報告があったので、この論文について簡単にまとめる
Twelve years of tracking 52-Hz whale calls from a unique source in the North Pacific
William A. Watkins, Mary Ann Daher, Joseph E. George, David Rodriguez (2004)
この論文はアメリカの海軍が持っているSound Surveillance System (SOSUS) によって受信された52Hzのクジラの音を位置推定し、軌跡を追跡したという論文である
SOSUSに関しては、2025年に公開されたトム・クルーズのミッションインポッシブル ファイナル・レコニングにも出てきた広範囲におよぶ音響観測システムである
ミッションインポッシブルで行ったような沈没座標の特定をクジラで行っているのである
52Hzの音は1989年に初めて確認されており、この研究では1992年から2004年までの観測データがまとめられている
検出された52Hzの鳴音はシロナガスクジラ、ナガスクジラ、ザトウクジラの鳴音とは異なり、同時に重なるような波形が記録されないことから単一個体由来であると解釈されている
このクジラは種同定がされておらず、音のみが確認されている
そのため、もしかしたらこのクジラは単独ではないかもしれないし、このクジラはこれまで確認されていなかった新種のクジラの鳴き声かもしれない
また、これまでヒゲクジラ科は10-40 Hzで鳴くことから、少し高い52 Hzの声は他のクジラでは聞くことができないのではと考えられていた
このいった余白が人間の空想を広げ、この52Hzのクジラは「孤独なクジラ」として一躍有名になったのである
ただ、クジラの音響の知識を有している私からすると、少し違和感も、、、、
2024年に Houser博士らがScienceに投稿した論文では野生のミンククジラ(ヒゲクジラ)を対象に聴覚特性を調べたところ、45 ~ 90 kHzまでの音を聴くことができることが判明した
これは想像よりも全然高くて、publishされた時は非常に驚いた
なのでこの何の種か分からない鯨についてもおそらく声は他個体に届いていると思う
52Hzを出す種がこの個体だけなら、なぜその音で鳴くのかについては興味深いところだが、少なくとも声自体は誰かが聞いていると思う
また、説明中に52 Hzのクジラの音は人間には聞こえないからピッチを上げていると書いてあった気がするが、人間の可聴域は20 Hzなので多分そのままで聞こえるはず
と、まあ、創作物に現実的な科学を持ち出しても風情がないので気にせず読んだが、感動したし、勝手に涙がこぼれてきた
是非おすすめしたい一冊である
とにかく、この52Hzのクジラはきっとこれからも、「孤独なクジラ」として人々の心を救うのかもしれない
そうであるならば、「孤独なクジラ」はもしかしたら、もう少し謎のベールに包んだままの方が良いかもしれない